ネタバレろぐ
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gjetost

No.174

#週末の原罪
過去つめつめ。長め。
過去がシナリオから定められなかったら、詐欺を繰り返してる個人病院の三男って事にしようかなと考えてた。

詐欺にも色々あると思うけど、この病院の詐欺は、薬だと言って色と香りをつけただけの砂糖水を処方したり、やる必要のない手術を行ったり、混ぜ物をしてかさましした粗悪な薬を作ったりという感じ。
裁くのが難しい話ではあるが、あえて治せない状態の患者に毒を投与して、死を早めたりしたこともあるかも。

院長は自分の子供達にも仕事を割り振ってて、長男にはメインの医者としての仕事を、次男には外交や契約の仕事を、そして三男のレテオンには調剤や受付事務の仕事を与えてた。

レテオンも最初の頃は、へんな調合にも意味があるのかな、そういうもんなのかな……と思っていたが、病院の真実を知っていくうちに、こんな粗末な医療に対して礼を言う患者を見ていられなくなってきた。
ろくな効果を見込めない、それどころか毒にさえなりうる薬に縋る人に、真実を叫びたくて仕方なくなった。

それでも、腐っても血縁である家族への影響を考えて公表をグッと堪えて、最初は家族……院長に会心を求めた。
しかし院長は罪を認めて開き直るばかりか
「家族に不自由させない為に色々と工夫をしているのに、それを詐欺とは何事か」
「薬に効果がないのはお前の責任だ。限られた資材の中でも有効な薬を作る力がお前にあれば、人々は死なずに済んだ」
と逆にレテオンを責め立てた。

たしかにレテオンはその時代にしては恵まれた暮らしをしていたし、高等な教育を受けていた。寝床と飯に困らないのは詐欺行為のおかげかもしれなかった。自身の知識が足りないせいだということも否めない。
(レテオンの知識に関しては、院長の指示であえて間違った知識を教えられていたり、新しい技術を教えなかったりして、意図的に他の病院に逃げられないような欠陥品にされていたせいでもあるのだが。)(薬学と応急手当を持ってるのに医学や化学を持ってないことの理由づけ)

医者も商売で、患者の金も無尽蔵ではない。どこかで折り合いをつけなければならないということは理解できたが、納得は出来なかった。

それでも、と食い下がったかもしれないし、兄と協力したり、余計なことを言うなと憎まれたかもしれない。
そうして散々無力感を擦り込まれた結果、レテオンはとうとう良心の呵責に耐えかねて、仕事の時間以外はひたすら祈るようになった。

社会的な裁きを求めれば家族に困難が降りかかるし、改心を求めても響かない。自らの弱さを自らが裁いた所で、医院が変わるわけでもない。
自分が動いたところで何も変わらないし、きっと自分の考えることはすべてが間違い。

そう考えるようになってしまえば、神に懺悔することしか救いは無かった。

そうして祈り続けることで誰かに迷惑をかけることは無かったと思うけど、家族や患者からは不審がられたし、あの三男くん、ずっと祈ってるけどなんなのかしら……なにかやましい事でもあるのかしら……ってちょっと噂が立ったりしたかもしれない。
そんなことから医院の詐欺がばれてはたまらないと考えたレテオンの家族は、その祈りを利用して彼を修道院に押し込む事に決めた。
このままレテオンの精神が壊れていく様を晒すより、「三男は教会に入った」という方が角が立たないし、病院と教会の間にコネクションが作れれば便利に作用することも多いだろうという考えだった。
教会に入る、つまりはもう詐欺を働かなくても良いとなればレテオンとしても願ったり叶ったりで、住み込みの手続きは驚くほど早く処理された。

これが20歳前後の時の話かな。

教会に住み込むようになってすぐのうちはまだ無力感に苛まれたままで、レテオンはひどく消極的だった。とくに気付いたことを指摘する事がどうしても苦手で、災いの種に気づくものの、それを口に出す事ができなかった。口ごたえも出来ない。
どうして気付いた時に教えてくれなかったんですか!?って叱られても、す、すみません……ごめんなさい……って感じで、反省フェーズを飛ばして謝罪一辺倒になっちゃう感じ。

しかし、ある時転機が訪れる。
何人かで薬を作る為に薬草を集めていたときのこと。みんなで採取した薬草の中に、いくつかの毒草が混じってしまっていた。その場にいた人間の中でそれに気付いたのはレテオンとレナトゥスだけだった。

レテオンは気付いてすぐはおろおろと狼狽えるばかりだったが、その様子に気付いたレナトゥスが助け舟を出してくれて、漸く毒草のことを口に出す事ができた。
また否定されるんじゃないか、若造が口を出す事じゃないと叱られるんじゃないかとレテオンは身構えていたが、そんなことはなく。それどころか、君のおかげで周りの信徒たちは病人を苦しませる事にならずにすんだと周りの人々は感謝を述べた。
以前のレテオンの周囲ではあり得ない出来事だった。

正しいことを言ってもいいと理解してからは、ずいぶんのびのびと生きることができた。
なにより、生きるものに神の使徒として慈愛を注ぐ時には採算を考えなくてもいいというのが、レテオンにとっては救いだった。

病院は患者の選り好みがひどくて、金にならない浮浪者の患者にはなるべく関わるな、薬の代わりに飴でも与えて帰らせろと言われていた。しかし教会に所属する身であれば、最高の医療を受けさせることや過度な金銭支援は難しいとしても、可能な範囲で正しく治療する事が許されたし、いくらでもその人のために祈ることができた。

気付いた事を素直に話しても良い環境はレテオンにとても向いていた。きっと、司祭の後任としてレナトゥスに認められるほど。

レテオンとしても、レナトゥスの世話をする事は喜ばしいことだった。尊敬する人の力になれるのならばこれ以上のことはない。
間違ったことを言わないだろうという信頼もあった。
時々行われる悪戯や冗談も、その程度なら可愛いものだと思っていたかもしれない。自分にだけそんな姿をみせてくれるのだと、特別感さえ感じていたかも。
レテオンも、レナトゥス司祭のことを父のように思って少し甘えていたんじゃなかろうか。
こんな人が家族にいたらよかったのに。みたいな。

しかしレナトゥスが変わり始めると、レテオンの精神も一緒に不安定になった。
多分、傲慢なレナトゥスはちょっと父親に似てたんだろう。娼婦のことを嫌悪するなんて、金目当ての医者にもよくありそうな思想だし。
レテオン的にはトラウマスイッチが入って目を逸したくて仕方なかったが、レナトゥス本人との約束のせいで逃げられない。
そうして逃げられないままストレスが溜まっていって、以前のレテオンのような、指摘を恐れるだんまりの人間に戻っていってしまったのだろう。

もしかすると、世話役を外された時には「ようやく解放された」とさえ思ったかも。

そこからもずっとやる気は回復せず。元司祭の世話役とはいえ、ぐだぐだした仕事の達成率の低い人間にわざわざ仕事を頼む人もおらず。
結果として、怠惰〜なサボサボ人間になっていた。って感じかしら。
(もしかしたら、トラウマとストレスに長期間晒された結果、鬱に近い状態になっていたのかもしれない)畳む

クトゥルフ